院長の糖尿病ノート

6月2017

糖尿病の薬を飲むと太る?

2017.06.25

 

「糖尿病の治療薬を飲み始めたあとに太ってしまった」と患者さんが受診されることがあります。

 

糖尿病の内服薬には、膵臓からのインスリンの分泌を促進する(インスリンの量を増やす薬)と、インスリン抵抗性を改善する(インスリンの効きをよくする)薬、インスリン作用には直接関与しない薬があります。

 

生活習慣病である2型糖尿病(糖尿病患者さんの9割)には、インスリンの量が少ないことが主原因である場合と、インスリン抵抗性が強いことが主原因である場合の2パターンがあり、それぞれの要素の比率も患者さんによって異なります。

 

インスリンの効きが悪い患者さんにインスリンの分泌を促進する薬を投与してしまうと、肥満を助長してしまい、血糖値は良くなっても長期的には好ましくありません。長期間飲み続けることによって膵臓の傷みが早まってしまったり、動脈硬化の進行や低血糖などで余命が短縮したりしてしまうことさえあります。

また、患者さんの年齢や身体の状態によっても、血糖コントロール目標や治療薬が変わってきます。

 

糖尿病専門医は、糖尿病患者さんが今どういう病態(病気の状態)なのかを的確に判断し、患者さん一人ひとりに最も適切な治療を提供することができます。

 

目先の血糖コントロールだけでなく、長期的な視点から適切な治療を受けて頂きたいと思います。

 

カテゴリー|

地球温暖化が糖尿病患者の増加に影響?

2017.06.19

現在の地球は過去1400年で最も暖かくなっており、最近頻繁にみられる異常高温や大雨、竜巻などの原因ともいわれています。

この地球温暖化が、世界的な糖尿病患者の増加にも影響している可能性が最近の論文で報告されました。

今回の論文によれば、気温が1度上昇すると、糖尿病の発症が1,000人当たり0.314人増加するとのことです。

 

 

その原因ですが、地球温暖化による気温の上昇により、褐色脂肪細胞の働きが低下することが影響している可能性を指摘しています。

私たちの体内に存在する脂肪細胞には、大きく分けて白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の2種類があり、白色脂肪細胞の方が、私たちが一般的に「脂肪」と呼んでいるもので、皮下や内臓に存在し、体内の余分なエネルギーを脂肪として蓄積しています。一方、褐色脂肪細胞は、肩甲骨の周囲などに存在し、脂肪を燃焼し熱を産生する働きを担っています。この褐色脂肪細胞が多い人は、エネルギー代謝が高く、太りにくいことがわかっています。

かつては、新生児にしか褐色脂肪細胞がないと考えられていましたが、最近の研究により成人にも褐色脂肪細胞が存在することが分かり、肥満・糖尿病の予防や治療の点から注目されています。褐色脂肪細胞は、運動により増加することがわかっており、地球温暖化に個人レベルで対処することは難しいですが、運動をすることによって気温の上昇に備えることは可能ですね。

 

引用論文:

Lisanne L Blauw, et al.: BMJ Open Diabetes Research & Care, 20-MAR-2017

カテゴリー|

日本人は糖尿病になりやすい?

2017.06.12

私たちの身体は、食べ物をしばらく食べられなくても血糖値が下がらないように(低血糖にならないように)するためのセーフティネットが発達しており、複数種類の血糖上昇ホルモン(グルカゴン、カテコラミン、副腎皮質ホルモンなど)によって血糖値が下がり過ぎないようになっています。ところが、血糖値が上がり過ぎないように体内で働いているホルモンはインスリンの1種類しかなく、血糖低下に対する防御機構に比べかなり貧弱です。

 

人類は長い間、生きていくうえで食糧をどう確保するか、すなわち飢餓との戦いの連続でした。食べ物に困らなくなり、周囲に食べ物が溢れているという状況は、ほんのこの数十年であり、長い人類史上、初めての経験です。このため、私たち人類の身体は、血糖値が上がりすぎることを想定していなかったのではないかと考えられます。

 

日本やアジアの多くの地域では伝統的に低脂肪低カロリー食である穀物中心の食文化であり、欧米人と比べ、高カロリーの食事をすることなく生きてきました。このため、インスリンを多量に分泌する必要がなく、日本人は欧米人に比べて遺伝的・体質的にインスリン分泌が少ないのではないかという説があります。

 

戦後、食事の欧米化が進み、牛肉や脂もの・過剰な糖質など、高カロリーの食事をするようになりました。こうなれば、私たちのようなインスリン分泌の少ない人種は、欧米人のようにインスリンをどんどん分泌して血糖上昇に対応することができず、たやすく糖尿病になってしまいます。

また、運動をすれば、少ないインスリンを効率的に使って血糖値を下げられますが、自動車の普及や電化製品の発達によって逆に運動不足が生じ、悪い状況に拍車をかけてしまいます。

 

この結果、糖尿病患者が急増し、国民病ともいわれる現在の状況になってしまいました。

 

 

裏を返せば、若い頃から食事・運動を意識して生活していれば糖尿病の発症を抑えられるということですし、糖尿病を発症しても、高血糖が持続しないうちにきちんと治療に取り組めば、病気の進行を抑えることができます。

 

健康診断などで血糖値の異常を指摘されている方は、早く医療機関を受診して下さい。すでに医療機関で治療中の方は、受診を中断することなく、良好な血糖コントロールを維持することが大事です。

カテゴリー|

シックデイ sick day

2017.06.06

シックデイ(sick day)とは、糖尿病の患者さんが他の病気にかかって体調を崩しているときのことです。特に、発熱、下痢、嘔吐、食欲不振のため、食事が出来ないときをさします。普段は血糖コントロールが良好でも、このような状態では著しい高血糖が起こったり、ケトアシドーシスに陥ることがあります。インスリン治療中の患者さんは、食欲不振で食事が摂れなくても、自己判断でインスリン注射を中断しないで下さい。

 

○原因

◆体にストレスが加わると、副腎から血糖を上昇させる働きのあるホルモン(アドレナリンなどのカテコラミン、グルココルチコイドなど)の分泌が誘発されます。

◆食事が普段通りに摂れないと、糖質の摂取量が減り、体内で脂肪分解が起こり、血中のケトン体が増加することがあります。

◆下痢、嘔吐によって、脱水や電解質異常を起こすことがあります。

◆反対に、いつものインスリンや内服薬の量では低血糖になることがあります。

 

○治療

まずは十分な水分を摂取し、脱水を防ぐようにして下さい。食欲がなくても口当たりがよく消化の良い食べ物(おかゆ、スープ、麺類、果物、アイスクリーム等)を選び、できるだけ摂取するようにして下さい。食事量に応じて内服薬、インスリンの量を調節して下さい。血糖測定している人はなるべく頻回に測定しましょう。全く食事が摂れない時や、発熱・高血糖が続く時は、速やかに医療機関に連絡・受診して下さい。

 

表:シックデイの時の内服薬、インスリンの量

食事量 内服薬 インスリン
通常通り 通常通り 通常通り
通常の半分量 *通常の半分量 *通常の半分量
全く摂れない 中止 *減量

*患者さんの状態や服用中の薬剤により異なります。あらかじめ主治医に確認しておきましょう。

カテゴリー|