院長の糖尿病ノート
なぜ糖尿病になりやすい人となりにくい人がいるのか -2型糖尿病の遺伝因子-
2017.07.04
日本人の糖尿病の95%を占める2型糖尿病は、食べ過ぎや運動不足などの環境因子とインスリン作用に関わる遺伝因子が複数重なり合って生じる「多因子疾患」です。同じように生活をしていても糖尿病になる人とならない人がいるのは、遺伝因子の影響です。
では、糖尿病の遺伝因子は何でしょうか?
従来、遺伝因子の解析には、病気に関与すると考えられる遺伝子の染色体上の位置を同定していく「ポジショナルクローニング」と呼ばれる方法と、病気の発症機序から関係している可能性が考えられる遺伝子(個補遺伝子)の異常を検索する「候補遺伝子解析」があり、ポジショナルクローニングは、1980年代に開発されて以降多く用いられ、パーキンソン病などをはじめ1000を超える疾患の原因遺伝子が明らかにされてきましたが、糖尿病のような多因子疾患の解析にはうまくいかないことがわかり、候補遺伝子解析によって、種々の遺伝子群と糖尿病との関連が明らかにされました。これらの遺伝子変異は、それ自体は効果の弱い遺伝子変異・多型ですが、複数の変異の組み合わせにより、効果がある一定水準(閾値)を超えたときに初めて発症に至り、その組み合わせは個人によって異なります。
2003年にヒトゲノム計画が終了し、全塩基配列が決定しました。その後、ゲノムワイド関連解析(GWAS: Genome-wide association study)と呼ばれる解析手法が発展しました。特定の遺伝子や狭い領域の染色体に注目する候補遺伝子解析とは逆の、ゲノム全体を見渡す手法です。
個人間における遺伝子の一つの遺伝暗号(一塩基)の違いを、SNP(スニップ;single nucleotide polymorphism:一塩基多型)といい、病気のなりやすさ(感受性)、なりにくさに影響を与える因子と考えられています。SNPはヒトの全ゲノム中に1000万種以上もあるといわれていますが、GWASは、SNPを位置マーカーとして使い、糖尿病の患者さんに高頻度に見られるSNPを見つけ出して、その近くに存在すると推測される疾患感受性遺伝子を挙げていきます。これまでに、日本をはじめ世界各国から種々の遺伝子の同定が報告されており、糖尿病発症の予防・治療につながることが期待されています。
また、遺伝子の塩基配列が正常でも、種々の外的要因(環境因子)によってDNAのメチル化やヒストン修飾などの遺伝子のスイッチオン・オフが起こり、インスリン分泌能などの細胞機能が後天的に変異する「エピジェネティクス(遺伝子発現制御)」も、糖尿病発症に関与している可能性が指摘されており、注目されています。