院長の糖尿病ノート
日本人は糖尿病になりやすい?
2017.06.12
私たちの身体は、食べ物をしばらく食べられなくても血糖値が下がらないように(低血糖にならないように)するためのセーフティネットが発達しており、複数種類の血糖上昇ホルモン(グルカゴン、カテコラミン、副腎皮質ホルモンなど)によって血糖値が下がり過ぎないようになっています。ところが、血糖値が上がり過ぎないように体内で働いているホルモンはインスリンの1種類しかなく、血糖低下に対する防御機構に比べかなり貧弱です。
人類は長い間、生きていくうえで食糧をどう確保するか、すなわち飢餓との戦いの連続でした。食べ物に困らなくなり、周囲に食べ物が溢れているという状況は、ほんのこの数十年であり、長い人類史上、初めての経験です。このため、私たち人類の身体は、血糖値が上がりすぎることを想定していなかったのではないかと考えられます。
日本やアジアの多くの地域では伝統的に低脂肪低カロリー食である穀物中心の食文化であり、欧米人と比べ、高カロリーの食事をすることなく生きてきました。このため、インスリンを多量に分泌する必要がなく、日本人は欧米人に比べて遺伝的・体質的にインスリン分泌が少ないのではないかという説があります。
戦後、食事の欧米化が進み、牛肉や脂もの・過剰な糖質など、高カロリーの食事をするようになりました。こうなれば、私たちのようなインスリン分泌の少ない人種は、欧米人のようにインスリンをどんどん分泌して血糖上昇に対応することができず、たやすく糖尿病になってしまいます。
また、運動をすれば、少ないインスリンを効率的に使って血糖値を下げられますが、自動車の普及や電化製品の発達によって逆に運動不足が生じ、悪い状況に拍車をかけてしまいます。
この結果、糖尿病患者が急増し、国民病ともいわれる現在の状況になってしまいました。
裏を返せば、若い頃から食事・運動を意識して生活していれば糖尿病の発症を抑えられるということですし、糖尿病を発症しても、高血糖が持続しないうちにきちんと治療に取り組めば、病気の進行を抑えることができます。
健康診断などで血糖値の異常を指摘されている方は、早く医療機関を受診して下さい。すでに医療機関で治療中の方は、受診を中断することなく、良好な血糖コントロールを維持することが大事です。